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福岡高等裁判所 昭和50年(ネ)270号 判決 1975年12月22日

控訴人(被告)

橋口徳男

ほか一名

被控訴人(原告)

山口若樹

ほか二名

主文

原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人ら訴訟代理人は、「本件各控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠の関係は、次に附加するのほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一  控訴人らの主張

(一)  本件事故は、控訴人花田が駐車禁止の場所ではない事故現場道路左端に大型貨物自動車を駐車させ、所用のため車を離れていた際、亡山口久幸運転の自動二輪車が、同人の前方不注視の過失によつて右大型貨物自動車の後部右隅に接触し、道路中央部を越えて右側部分に出たところを対向して進行してきた訴外中小路敏朗運転の普通乗用自動車に衝突したことによつて発生したものであつて、当時駐車中の右大型貨物自動車の後部には反射器が設置されていた(当時夜間駐車に際し尾灯の点灯は要求されていなかつた)から、控訴人花田にはなんらの過失はなく、また同控訴人は直接の加害者でもない。右事故は専ら亡山口久幸の前方不注視という重大な過失によつて惹起されたものであつて、控訴人らにはなんらの責もない。

(二)  仮りに控訴人花田に過失があるとしても、その程度は、亡山口久幸の前方不注視の過失の程度に比し極めて軽度のものであるから、右山口の過失の程度は当然斟酌されてしかるべきである。

(三)  被控訴人らは、本件第一審判決をもつて訴外日新火災海上保険株式会社に対し、自賠法による保険金の被害者請求の手続をとつたが、もし本件において控訴人らの損害賠償責任が認められるとすれば、金五〇〇万円を限度として右訴外会社が被控訴人らの損害を填補することは公知の事実であるから、金五〇〇万円を限度として損益相殺の主張をする。

二  被控訴人らの主張

控訴人ら主張の右事実中、その主張の大型貨物自動車に後部反射器が設置されていたことは認めるが、その余の事実は争う。

三  証拠〔略〕

理由

一  被控訴人ら主張の事実中、昭和四七年二月二日午後九時三七分頃、佐賀県杵島郡北方町大字大崎一〇九八番地中村年広方先道路において亡山口久幸運転の自動二輪車が、控訴人花田の駐車させていた大型貨物自動車に接触したこと、右久幸が被控訴人ら主張の傷害によつて死亡したことは当事者間に争いがない。

二  〔証拠略〕を総合すれば、本件事故は、控訴人花田が大型貨物自動車(佐一せ三四九六号)を運転して現場にいたり、幅員五・三五メートルの同道路左端に幅二・四五メートルの右自動車を北向に、右道路とその左側の空地にまたがつて車体の右側半分約一・二メートルの部分が右道路上に出ぱつたような状況で駐車させ、控訴人花田において私用のため、同所附近にあるおじの家に行くべく、右自動車を離れてから、すくなくとも一時間を経過した後、自動二輪車(厳木町一―三六〇号)を運転して北進し、現場にさしかかつた亡久幸が、自車前部を、右駐車中の大型貨物自動車の後部右端に接触させ、その衝撃によつて道路の右側部分に走行したうえ、折柄対向してきた訴外中小路敏朗運転の普通乗用自動車(佐五五さ九九二三号)の右前部に衝突させて被控訴人ら主張の傷害を負い、まもなく死亡したこと、右大型貨物自動車の駐車位置は、道路交通法(当時施行のもの、以下同じ)によつて駐車が禁止されていた場所ではなかつたこと及び右自動車の後部には反射器(これが設置されていたことは当事者間に争いがない)のほか、制動燈、尾燈及び方向指示燈が設置されていたが、駐車燈は設置されていなかつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。ところで道路交通法並びに同法施行令によれば、本件事故当時、車両等を夜間道路上に駐車させる場合に、尾燈あるいは駐車燈等を燈火しなければならない旨の定めはなかつたから、控訴人花田が駐車燈を設置しない右自動車を駐車しもしくは尾燈等を燈火しないままこれを駐車したことに過失はなく、また右に認定したところによれば、右控訴人が駐車させた大型貨物自動車の右側道路上には三・五メートル以上の余地のあることが明らかであるから道路交通法四五条二項に定める駐車方法違反の事実もなく、また右駐車が道路の左側端に沿つてなされたものである点において同法四七条二項に違反するものでもない。そうすると控訴人花田には、亡久幸の運転する自動二輪車が、同控訴人の駐車させた前記貨物自動車に接触したことについて過失あるものとはいえず、却つて右貨物自動車の後部に反射器が設置されていたことからすれば、後方から進行してきた亡久幸の前方不注視の過失によつて右接触が生じたものというべく、控訴人花田は前認定の衝突事故の結果についてその責を負ういわれはないから、同控訴人に対する民法七〇九条にもとづく被控訴人らの請求はその余の点の判断をまつまでもなく理由がない。

三  次に控訴人橋口の責任について考えるに本件衝突事故の原因となつた前認定の接触は亡久幸の過失によつて発生したもので、控訴人花田に過失のなかつたことは前叙のとおりであるところ、控訴人橋口は、控訴人花田の無過失と亡久幸の過失のほかは自賠法三条ただし書に定めるその他の免責事由を明確には主張していないが、その主張全体から判断すると、右接触は、亡久幸の過失のみによつて発生し、他にその発生原因はないとの趣旨を含むものと解すべく、本件にあらわれた全証拠を総合すると亡久幸の過失のほか、右接触の発生原因のないことが認められるから、控訴人橋口は右接触に続く衝突事故による被控訴人らの損害につき自賠法三条による責任を負わないものというべきである。それ故被控訴人らの控訴人橋口に対する各請求は、その余の点の判断をまつまでもなくその理由がない。

四  そうすると原判決中被控訴人らの請求を一部認容した部分は不当であるから、該部分を取消して被控訴人らの請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 生田謙二 右田堯雄 日浦人司)

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